いかでかは 思ひありとも 藤原実方

行成との口論で激高した実方が、行成の冠を投げ捨てる逸話の場面

皆様こんにちは
蓬田でございます!

今日から、佐野の和歌のほかにも、佐野の近くで詠まれた歌もご紹介していきたいと思います。

今回は栃木市の「室(むろ)の八島(やしま)」を詠み込んだ和歌です。

平安時代から江戸時代にかけて、「室の八島」を詠み込んだ和歌がたくさんありました。

「室の八島」と聞いても、今のわたくしたちには、全然ピンとこない方が、わたくしも含めて多いと思います!

忘れ去れた「歌枕(うたまくら)」です。

歌枕とは、和歌において詠まれた題材のことです。

その後、和歌の題材となった名所旧跡のことを指すようにもなりました。

それでは、きょうの和歌です。

いかでかは
思ひありとも
知らすべき
室(むろ)の八島(やしま)の

けぶりならでは

藤原実方(ふじわらのさねかた)

作者の藤原実方は、生年は不明、亡くなったのは長徳四年(998年)です。

なかなかに逸話のある貴人です。

若い頃から順調に出世街道を歩みますが、公卿(京都御所に仕える三位以上の貴人)を目前に出世の道が絶たれます。

とある和歌の催しのとき、一條天皇の前で藤原行成と和歌について口論となり、実方は何と行成の冠を奪って投げ捨てるという暴挙を行います。

当然、一條天皇からは激しい怒りをかい、「歌枕を見て参れ!」と、左遷をを命じられてしまいます。

歌枕は地方にあることが多いので、歌枕を見る=左遷ということですね。

実方は任地の陸奥で客死。四十歳くらいと考えられています。

辺鄙な地で亡くなった実方への同情から、実方は雀となって転生したなどの話が伝わりました。

歌の意味ですが、

どうやって
恋の炎が燃えていることを
あなたに知らせることができましょう
くすぶり続けているという

室の八島の煙でなくては

室の八島は、今の栃木市エリア一帯に流れる清水から発する蒸気が、恋に身を燃やす「けぶり」に喩えられて、歌に詠まれたものです。

抑えに抑えた、それでもわき出してしまう恋の想いを詠むのに使われます。

ところで、いまは栃木市にある大神(おほみは)神社の池のこととされています。

池には八つの小さな島があるので「八島」です。

神社の案内板にも、そのように説明されてるそうです。

わたくしはまだ見たことないので、近く行って確認してみたいです。

もともとは、宮中の大炊寮(おほひづかさ)の竈(かまど)のことを言いました。

宮中の隠語だったのでしょうか?!

これがいつの頃からか、下野国のことと言われるようになったようです。

個人的に、こういういきさつは、いろいろ調べていくと興味深くて好きです。